ハウスM

この住宅は、長野県南信地方に位置しています。敷地は、かつて田園地帯だった場所が近年になって住宅地として整備され始めた地域にあり、周囲には新しい建売住宅が並んでいます。しかし、西側は広々とした田畑が広がり、その先に駒ケ岳を望むことができるため、まだ田園的な雰囲気が残る地域でもあります。このような住宅地と田園地域の二つの性格を併せ持つ環境を気に入り、クライアントは土地の購入を決めました。

施主からの要望は、薪ストーブで建物全体を暖める吹き抜けのある一体的な空間の住宅で、室内から西側の駒ケ岳を望む大きな窓の設置や、4人家族分の布団を一度に干せる南面に面した幅広いベランダの設置でした。

計画に際しては、住宅と敷地環境の結びつきを重視し、長野県の中南信地方によく見られる「本棟造り」という民家形式を取り入れました。本棟造りは、緩やかな勾配の大きな切妻屋根が広い梁間に架かり、妻入りの大きな立面が特徴です。この「大屋根」と「大きな妻側立面」が施主の要望である「一体的な空間」と「幅広いベランダ」を実現するためのモチーフとして適していると考え、参考にしました。

具体的には、通常の本棟造りでは軒裏空間になることが多い桁側の2階部分に、桁梁の上に追加の梁を架け、その梁を起点に455ピッチの小幅の登り梁で屋根架構を構成しました。そして、1階のリビングと玄関の上部を吹き抜けとすることで、空間を有効に活用しました。また、登り梁の勾配を6寸勾配と比較的急にすることで、2階の主寝室上部にはルーバー床の屋内ベランダがあり、北側の階段ホールとつながるロフトができ、「一体的な空間」を実現しました。

室内からの眺望については、南西面に大きな窓を設けることで、眺望を確保しつつ、本棟造りの住宅が薄暗くなりがちな点を改善し、明るい室内空間を実現しました。また、明るさがそれほど必要でない主寝室や子供室には小さめの窓を配置し、民家特有の落ち着いた暗めの雰囲気を保ちながら、対照的な空間を演出しました。

「幅広いベランダ」は、ベランダの床梁を屋根を支える登り梁と合板で一体的に固めた手すり壁で受けることで実現しました。

この計画では、地域に伝わる伝統的な住宅形式を、薪ストーブや布団干しといった日常生活の視点から再解釈することで、地域性と結びついた住宅となることを目指しました。

※前職での担当物件

※※建築の総合情報サイトarchitecturephoto.netにて紹介していただきました。