ハウスS


 
「家は3回建てなければ本当にいい家は出来ない」という格言のようなことをたまに聞く。1回目は結婚直後の夫婦ふたりだけの簡素な住宅の新築で、2回目は子供が生まれ生活スタイルが変わったことによる増築、そして3回目は子供が巣立った後の老後を見据えた減築や建替え、ということになるらしい。普通に考えれば1回の工事で終わらせることが理想であるが、生活スタイルの大きな変化や、生活のなかでの使い勝手などの気づきを、どこかのタイミングで住宅の間取りに反映させることができるのであれば、それはそれで理想的であろう。
 
2回目の改修工事を行う住宅である。
 
10年ほど前に地元の大工によって大規模な改修工事が行われた物件で、その後の子供の成長や、生活スタイルの変化を間取りに反映させるべく、多目的室という大きな部屋を中心に再び改修工事を行うこととなった。
 
間取りとしては、雑然としていた多目的室を、あらためて家族が自然と集まるような場所に再編成するため、キッチン側の木製建具を外すとともに、多目的室と廊下のあいだの壁を撤去することで、キッチンとつながる一体空間とした。また、以前は家具で仕切られていた多目的室と洗濯場についても、壁と木製建具で明確に仕切ることで、それぞれの部屋の役割を明確にさせた。あわせて、前回の工事で断熱が未実施だった多目的室の床については、冬でも家族が快適に過ごせるよう、既存の床を撤去し、断熱材を敷込んだ上で新たな床材を敷き込み、断熱性能の向上を図った。工事は、前回の改修工事を行った大工によって引き続き行われ、壁のグレーの漆喰塗りについては、近年のトレンドであろう、クライアントのDIYによって行われた。
 
建築史家の加藤耕一は、古くなった建物に対する態度を「再開発」「修復/保存」「再利用」の三者に分け、現在多く行われている建物のリノベーションを「再利用」に位置づけたうえで、時間という要素を排除し、竣工時の建物の状態のみを評価するモダニズム的な「点の建築史」から、建物を生きられた時間のなかで捉えなおす「線の建築史」への転換を提唱している。
 
前回の改修工事より前、多目的室は車用のガレージだったと聞いている。生きられた時間のなかでガレージを家族の集まる場所に変え、さらなる変化にクライアントみずから手を加えてゆく。生きられた時間のなかで建築に変化を加えてゆくことには、一般的にはさまざまな困難がつきまとうが、古家具や古道具を集めることを趣味とし、生活のなかで日常的に「再利用」を行っているクライアントにとっては、建物の「再利用」もしごく当然の出来事だったのかもしれない。
 
※※掲載写真などについては、コロナウイルスの影響により、後日アップデート予定である。
 
 

 

 

 

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