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民家の改修工事である。「民家」という言葉は、考現学の今和次郎の『日本の民家』(更生閣書店,1937)をきっかけに一般に広く認識されるようになったといわれている。今によると、民家のなりたちには気候、産物、経済などの各種条件が影響を与えており、建設においてはその地域で得やすい材料を主としてつくらなければならず、それが結果として各地に独自の形態をもった民家を生む要因になったという。
民家はかつての地域の社会的制度や、気候、産業、経済などを読みとることができる歴史的な場所であり、民家を保存することはサスティナブルな社会が志向されている現代でなくとも意義深いことであろう。しかし、民家のもつ社会的な意義とは別に、現存する多くの民家は現在の生活に対応できなくなった不便な状態で使用されている場合が多く見受けられ、したがって現在使われている民家の改修工事においては、保存より先に民家における生活の改善が第一義になるのではないかと感じている。
本工事においても、現在の生活に合わなくなってきた間取りの変更と、設備機器の更新に計画の主眼を置き、その上で民家がもつ平面構成と空間構成を生かした設計を行った。特に、建具で仕切られ薄暗い印象であったLDKについては、屋根なりに天井を張り、既存の丸太梁をあらわしにし、天窓を設けた一室空間にすることで、自然と家族が集まる場所となるよう計画をした。また、廊下の先に窓を設置し、東側の裏庭や北側の上座敷へ視線が抜けるような計画とすることで、平屋特有の広々とした間取りを感じられるようにした。
建築史家の伊藤ていじは、『民家は生きてきた』(美術出版社,1963)のなかで、「祖先への郷愁としてではなくして、むしろ輝かしい構想力にみちた未来への現代的象徴または反映として、民家を保存すべきである」と述べている。その上で、いくつかある民家の保存方法のひとつについて、「第二は軸組と外観を生かし造作工事の変更、仕上げの改善、設備の現代化等によって民家を再生させ住みつづけながら誇りをもって後世に伝えることである」としている。
設計士として、改修工事を通して住み手に「住みつづけながら誇りをもって後世に伝える」手助けができたかは定かではないが、お施主様のお祖母様が今回の工事であらわしにしたリビングの既存丸太梁を指さしながらおっしゃった言葉から想像すると、「民家」の再発見はしていただけたのではないかとは思っている。
「この梁、素敵ね。どこから持ってきたの?」
 
※動画撮影:青木圭一/SODAfilm
 
※※第12回長野県建築文化賞リノベーション部門奨励賞受賞
 
※※※前職での担当物件
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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