2020/10/22

元ニューヨーク市交通局長のジャネット・サディク=カーンによる『ストリートファイト: 人間の街路を取り戻したニューヨーク市交通局長の闘い』を読む。ニューヨーク発の都市論といえばジェイン・ジェイコブズの『アメリカ大都市の死と生』が有名ですが、本書もジェイコブズ本の形式を踏襲してか、冗長で物語的な語り口の厚めな本になっております。
しかしながら、ジェイコブズといえば、ロバート・モーゼスとの対立が有名で、当時はストリート発の草の根的手法と、行政によるトップダウン的手法が対立していたのですが、本書においては権力者であるニューヨーク市交通局長がトップダウンで草の根的活動を行うという、本としてジェイコブズ的な形式をとっている分、なんとも逆説的な印象的を受ける内容でした。現在の都市計画の手法といえば、小さな実践を足掛かりに大きく都市を変えるといったタクティカルな手法が主流になっているので、本書の内容とも手法的には重なる部分が多いはずですが、ただそれを行っている主体が権力側となると、本書のなかで一般化された理論を実行できる主体は誰?といった疑問も残ります。ともあれ、あこがれの(笑)ニューヨークのストリートを物語的に体感できますし、何より最新の交通理論を実践を通して手軽に知ることもできる良本でありました。